EDITOR'S ROUNDTABLE ベテラン編集者座談会

ベテラン編集者の雑談会のイラスト

『編集者』の仕事のリアルは? コミックグロウル編集部の雰囲気って?


曖昧な編集者のイメージや、編集部として求める人物像まで、


これから編集者を志す皆様の疑問にお答えします。


取締役として、また長年のキャリアを持つ編集者としての視点を併せ持つお二人に、


率直に質問をぶつけます。

『編集者』の仕事のリアルは? コミックグロウル


編集部の雰囲気って?


曖昧な編集者のイメージや、編集部として求める


人物像まで、これから編集者を志す皆様の


疑問にお答えします。


取締役として、また長年のキャリアを持つ


編集者としての視点を併せ持つお二人に、


率直に質問をぶつけます。

新福さんのイラスト

新福恭平

株式会社ブシロードワークス代表取締役社長

2009年、医療系出版社のアルバイトから編集者に。2011年、株式会社マッグガーデンに入社し、漫画編集者としてのキャリアをスタート。在籍中には累計1,200万部を突破した『魔法使いの嫁』や、海外からも高い評価を得る『とつくにの少女』『PSYCHO-PASS』のオリジナルスピンオフ等の立ち上げを担当。当社でも引き続き『魔法使いの嫁』の担当編集を務める。

稲垣さんのイラスト

稲垣一真

コミックグロウル編集長 /
株式会社ブシロードワークス取締役

2009年、株式会社マッグガーデンに入社。漫画編集者としてのキャリアを開始し、コミックブレイド副編集長を務める。2015年、株式会社KADOKAWA入社後、ヤングエース編集長を務める。2025年より当社取締役に就任、現コミックグロウル編集長を務める。

1
『編集者』の働き方とは?
新福さん
「自分の時間を大事にできます!」みたいな言葉を語っているところを、採用サイトでよく見かけますが、これは事実です。昔に比べれば環境は劇的に良くなっているので。ただし、この『自分の時間』というのをどう使うのかが大事になりつつある仕事でもあるかなと。経験豊富で才能ある他編集者達と、入社初日から競い合わなければいけないわけですから。この『自分の時間』を何に対してどう投資するのか。漫画の編集者になるのはゴールじゃなくて単なるスタートラインに立っただけなので、叶えたい野心から逆算して働かなければいけない。
稲垣さん
具体的なサンプル例は別記事にあるスケジュールを参照してもらえればと思いますが、会社に泊まり込んで仕事をする、終電で帰って始発で出社する生活が毎日続く……みたいな働き方は今のグロウル編集部にはないですね。ちゃんと家に帰りますし、寝ますよ(笑)。
2
編集者に向いているのはどんな人?
稲垣さん
個人的な考えですが、編集者に向いている人って2パターンいると思っていて、ひとつはとにかく『自発性・積極性』があるタイプ。「1年目からどんどん作品立ち上げます」「とりあえず考えるより、まずはやってみます」みたいな人は、もちろん編集者に向いていると思います。どちらかというと感覚派ですね。もうひとつは、コツコツと仕事を丁寧にこなし、締切をきっちり守ることができるタイプ。努力の積み上げ方も手順通りにやっていく、そういう理論派な人も向いてはいると思います。
新福さん
僕が思うのは、ひとつは熱量高く、かつ『真剣に遊ぶ』ことができる人ですかね。熱量が薄い遊び方は誰でもできるんですけど、熱量が高い遊び方は中々できない。また、『真剣に』というのも大事ですね。たかが遊びをどれだけ真剣にやって面白がれるか、そして面白がってもらえるかが肌感覚でわかる人は向いています。あとは、好奇心が絶えない人ですね。たくさんのモノや人に常に興味津々でいること。口が達者でなくても、おどおどしていても大丈夫です。好奇心があるうえで、さらに深く思索にふけることができると向いているかなと思います。
稲垣さん
逆にこの人、向いてないなっていう人を探すほうが難しい気もしますね。強いていえば、『セルフ・コントロール』が苦手な人は結構厳しいかもしれません。編集者って作家さんとか、対・他人の体調やメンタル、スケジュールもそうだし、いろんなことをマネジメントしてあげないといけない仕事なんですよね。他人の面倒をみるということは、自分のことは自分で面倒を見られるということ。ちゃんと『セルフ・コントロール』できる人じゃないと厳しいかもしれないなって思います。
新福さん
何かがわかったような気になってやらない理由を探す人とか、誰かに誘われても断ってしまう人は向いてなさそうだなと思います。作家さんとどう協働するんだろうなと思ったときに行動が想像しにくいので。また、質問①にも繋がりますが自分の時間をエンタメに費やして、真剣に遊べる人でないと厳しいかもしれませんね。作家さんと会話するための言語を持ってない人は厳しい。エンタメに関わる時間を「働いてる」と思うか、「こんなことやってお金もらっていいんだ」と思えるか。周りのすごい編集者達をみていても、後者で考えられる人が長続きしてるとは思うし、多分、それが資質なんじゃないかなと思ったりはしますね。
稲垣さん
「どんなことにも興味を持てるかどうか」はありますね。例えば、「興味のないジャンルや作品の面白さが、自分ではあんまりわからない」ってなるときがあると思います。そのときに「読者が求めているのはわかっているから、読者の気持ちになって深く分析します」という人と、「わからないんで、興味を持つ気もないです、やらないです」って人だと前者の人が向いています。興味がないから手を出さない、そんな食わず嫌いな人はあんまり向いてないのかもしれませんね。
雑談会の画像
3
グロウル編集部の目指す文化とは
稲垣さん
僕がグロウル編集部で掲げてるのは、風通しがよく・会話しやすい・意見しやすい編集部ですね。完全にトップダウンで「売り上げを作っているこの人についていけば間違いない」みたいな天才が率いる編集部もあるとは思うけど、そうじゃないところは自分も含めて、みんな凡人の集まりなので。少なくとも僕は確実に凡人なので、カリスマ性で引っ張るっていうのは無理。みんなの意見を聞きながらしっかり対話していくほうが性にも合っています。
新福さん
それは一見自由そうに見えて、指揮命令を下されるよりもはるかにレベルが高い状態ですね。「あれをやれ、これをやれ」って命令されるほうが人は楽だと思うので。
稲垣さん
あとは、文化というアングルからはズレるかもしれませんが『独立愚連隊』を目指しています。ガチガチの軍隊っていうよりは、寄せ集めの『ならずもの傭兵部隊』みたいな雰囲気のほうが自分は働きやすかったし、結果に繋がりやすかった感覚があるので。
新福さん
そうすると、一人ひとりの練度がしっかり高くないと成立しない組織であり、かなりのプロフェッショナルな文化を持つ組織を目指すってことですね。公安9課的な言い方でいえば「スタンドプレーから生じるチームワーク」が成立する組織という。
稲垣さん
そうです。なので、今はその一人ひとりの練度を底上げすることが直近では大事かなと思っています。もちろん、数年やってみてグロウル編集部にこのやり方は合わなそうだなと思ったら、方針を変えることはあると思いますが。そのあたりも、皆がどういう風に編集者として成長したいのか、こまめにヒアリングしながら考えていきます。
4
新人編集者に求めるものとは?
稲垣さん
新入社員や若手に求めるものは、野心や野望と呼ばれるものですね。ただ、その内容自体はなんでもいいと思っているんです。例えば極端な例ですが、合コンの場で、「漫画編集やってます。何々という作品、担当してます」って言ったときに、「それ読んでます」「知ってます」って言われたい!とかでもいいと思うんですよね。「金持ちになりたい」とかでもいいし、「あの雑誌の編集長になりたい」でもいい。「幼い頃から読んできた作品の作者さんと、絶対一緒に仕事したい」でもいいし。逆にそういうのがひとつもない人、無欲な人や欲の小さい人は編集者になるのは難しいかもしれないです。
新福さん
そうですね。僕も野心は求めますね。ただ夢はいらないなとも思っています。夢って寝て見るものであって、現実性がないし期限もない。「いつか宝くじがあたったらいいな」はただの夢。「宝くじを絶対当てる」は野心です。後者は途方もない目標のためにどういう道筋を辿ればいいか考え抜き、踏み外せば死ぬような山道を歩かなければならないことを、言っている当人が知っているはずなので。
新福さん
逆に、それ以外はあんまりいらないですかね。学力もいらないと思います。ただ、学力はいらないけど知性はかなり必要です。野蛮な知性でも洗練された知性でも、どちらでもいいです。それぞれに勝ち筋があるかなと思うので。
稲垣さん
僕らの仕事は失敗が本質とも言えるので、『失敗を怖がらない』ことも大事です。漫画をビジネスとして成立させるのは非常に難しいことで、毎度打ちのめされないといけないので。なんでも考えなしに失敗していいってことじゃないけれど、恐れず前を向いてほしいですね。
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入社前にやっておいてほしいことは?
稲垣さん
今と就職してからで、圧倒的に違うことって何かっていうと、時間なんですよね。今のうちに、いろんな漫画・小説・映画・アニメ・音楽などを死ぬほどインプットしておくことが大事かなと思います。そのうえで感想が良し悪しどちらだったとしても「何故そう感じたのか」を考えながら、たくさんアウトプットもして欲しいですね。誰かと感想を言い合うとか、その作品にまだ興味を持っていない人にプレゼンしてみるとか、方法はなんでもいいです。注意点としては、『ながら見』はしないほうがいいと思います。スマホを見ながらとかだと全然頭に入ってこないと思うので、結果それは見てないのと一緒ですから。
新福さん
ですね。作品から感じ取れるものをすべて受け取るには、何時間も画面すべてに集中して見なければいけない。作家さん達もそうやって解像度をあげてくるので、作家さんと向き合う力をつくっていかなければいけないなと思います。稲垣さんが言っていたとおり、アウトプットまでできれば素晴らしいと思います。ただ、すべてをアウトプットしようとすると、その分どうしても時間がかかってしまいますよね。なので、頭の中で整理するとか、感想を簡単に言葉にする程度でも十分です。大事なのは「面白かった」「つまらなかった」という両方の感想を持つことだと思います。さらに、この感想をある程度言葉にできると、「つまらないものを、つまらないままにしない方法はないだろうか?」と考えられるようになると思います。そうなってくると編集者の仕事そのものだと思います。作品の「面白みを見つける」「面白くする」ということが編集者としての仕事のひとつでもあるので。
稲垣さん
あとは、旅行に行くでもいいです。『よりもい』を観て感動したので南極に行ってみましたとか、大谷翔平の試合を生で観戦に行きましたとか。きっかけはなんでもいいと思いますよ。
新福さん
そうですね。真剣でユニークな体験が多ければ多いほど、その人自体が面白くなる。その人にしかない経験が多ければ多いほど、面白い漫画を生み出す手助けになるのではないかと思います。
稲垣さん
あとは、漫画家さんとか小説家さんの苦労を少しでも理解するために、お試しで作品を作ってみる。同人誌を作って即売会で一冊出してみるのもいいですね。本一冊作るのがどれだけ大変か、それをさらに集客して売るっていうのは、どんなに大変なことかっていうのを体験してみる。そうすると、作家さんっていかに大変なのかとか、出版社ってどれだけ大変なんだっていう感覚が掴みやすくなるかなと思います。
6
BWKで働くことにメリットはありますか?
稲垣さん
数ある出版社のなかで、ブシロードワークス、そしてコミックグロウルを志望していただくことのメリットはもちろんあると思っています。やっぱり歴史の長い雑誌だと、もう看板作品とか看板作家さんがある程度固定されていて、そこに勝つのは結構ハードルが高いんですよね。編集者だったら誰しもが目指していることだとは思うのですがそれがなかなか難しい。ただ、ブシロードワークス、コミックグロウル発で、ゼロから生まれた看板作品・大ヒット作は現状まだありません。今後入社してきてくれるあなたが、来年にはあなたが惚れ込んだ作家さんと共にコミックグロウルの看板作品を作っているかもしれないと思うと、面白いんじゃないかなと。歴史を背負うのではなく、0から歴史を作ることに面白さを感じられる人には弊社はメリットしかないなと思います。
新福さん
新卒のときって、会社を選ぶときに規模感だったり、安定感だったりで選びがちなのはもっともなことです。そこ自体を否定することはありません。その点でいえば、単純な会社としての規模や歴史の勝負なので弊社で働くメリットはさしてありません。ただ、できたばかりの会社には混沌が存在しています。混沌は何かが産まれる強い力を持っていますから、『新星が誕生する瞬間』を眼前で目撃できる可能性があります。この誕生に関わることには、あなたの人生において途方もない大きなメリットがあるかなと個人的には思います。今後数十年、人生の大半をかけて『働く』という行為をおこなっていくときに、「看板を自分が光らせたいのか」「看板に自分を光らせてもらいたいのか」という違いは一度考えてもいいんじゃないかなと思っています。自分より大きな相手を例え一瞬でも倒すこと、その快感は表現し難いものですが、これを味わうためにはまず小さなチームに入ることです。小さいチームでも巨人を倒す一撃を放てるのが、出版最大の面白さでもありますから。ここまで読んで恐れより興味が勝ったあなたは、きっと僕達と同じくリスクを恐れず、新しい面白さに賭けることができる人種です。お会いできることを楽しみにしています。
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